「久しぶりに君の国を見た気分はどうかな,レティオーン?」
端整な顔立ちの青年は,隣の女性の青髪を優しく撫でて,クスクスと笑い声を立てた。
「言うな,ハルス!私はアーセレナの人間だ。ウィンディーンなど…」
「でも,君の母君が健在なら,ウィンディーンがこうも他国に押し込まれる事も
なかっただろうに。そして今頃は,君自身が女王の冠を戴いていたかもしれない」
「私は,女王などに興味はない。
だが,愛する人と幸せに暮らしたいとだけ願っていた身重な母を,
惨めに追い出したウィンディーンの人間は決して許さない。それだけだ」
吐き捨てるように言って,青年の手をはねのける。
「まあ,ウィンディーンの王家は血統に関して厳格過ぎる程厳格だからね。
王族の血にアーセレナの血が混ざる事を決して許す事ができなかったのだろう。
大人の世界なんてそんなものだよ」
言って直に,強烈に睨まれているのを感じて,青年は慌てて肩をすくめ,おどけて見せた。
「さて,そろそろ行くかい?レティオーン?」